掠文庫
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策を考えた。桑野は、やはり同窓の一人で、作家としていちばん早く世間から
認められた男であった。
青木も賛成した。雄吉は給仕女を呼んで、勘定を払おうとした。すると青木
はいつの間にか五円札を持っていて、「いや勘定は俺がしよう」といいながら、
女中に五円札を渡した。雄吉は強いて争うべきことでもないので、青木のなす
ままにした。雄吉は、青木の、そうした弱味を見せないぞ、零落はしていない
ぞといったような態度が、かなり淋しかった。
二人は、尾張町から上野行の電車に乗った。ふと、雄吉は停留所の電柱の時
計を見ると、ちょうど三時を示していた。明日の四時といえばもう二十五時間
だ。二十五時間経てば、青木――雄吉にとっては、永久の苦手ともいうべき危
険性を帯びたこの男は、東京にいなくなってしまうのだ。もう少しの辛抱だと
思った。そう思っていると、青木は、
「君! 雑誌記者なんて、ずいぶん惨めな報酬だというじゃないか。年末の賞
与がたった五円という社があるそうじゃないか。君の方はどんなだい」といっ
た。
雄吉は、また始まったなと思った。
「僕の方は、そんなでもないな」と、答えながら、心のうちで二十五時間を繰
り返した。そして「桑野のところへ連れて行けば、桑野がまたどうにか時間潰
しをしてくれるに違いない」と、思った。
(おしまい)
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