掠文庫『石川啄木詩集』
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■起きるな NO.14
西日をうけて熱くなった 埃だらけの窓の硝子よりも まだ味気ない生命がある。 正体もなく考へに疲れきって、 汗を流し、いびきをかいて昼寝してゐる まだ若い男の口からは黄色い歯が見え、 硝子越しの夏の日が毛脛を照し、 その上に蚤が這ひあがる。 起きるな、超きるな、日の暮れるまで。 そなたの一生に冷しい静かな夕ぐれの来るまで。 何処かで艶いた女の笑ひ声。
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